迫真のことならなんでも情報局

＜p＞下巻は、八・一五宮中クーデターの続きからです。

近衛師団の森師団長は、徹底抗戦を主張する中堅将校らによって斬殺され、古賀少佐、石原参謀によって、宮城《きゅうじょう》と放送局遮断の偽命令が発せられたことにより、近衛師団によって宮中と放送局を占拠されてしまいます。

そして、下村情報相をはじめとして、放送協会の会長、理事、宮内省の総務局長ら総勢十八名が狭い一室に監禁され、玉音放送用の録音盤の必死の捜索が続けられます。

放送局でも畑中少佐らが自らの放送を強要すべく押し問答が続きました。

陸軍省でも、若手将校らが戒厳令を敷こうと、陸相らを説得しようとします。

＜br /＞ こういった中、東部軍司令官田中静壱大将は、近衛師団の渡辺連隊長と電話連絡をとり、偽命令であることを伝え、事態収拾に動き出します。

そして、近衛衛兵本部に乗り込み、反乱の中心である畑中、椎崎両少佐、上原大尉、古賀参謀らと相対します。

そして強い決意と委曲を尽くして、聖断に至った経緯を諄々に説き、承詔必謹の必要性を述べます。

声涙下る説得に、反乱将校らも意気消沈、数時間の後に相次いで自決し、遂にクーデターは鎮圧に向かいました。

＜br /＞ こうして、終戦の玉音放送は、八月十五日正午に放送されるに至りましたが、もし当初の予定のように、当日の朝に放送されることになったのであれば、放送局に録音盤があったはずで、反乱軍によって奪取された可能性が高く、その意味で、正午に放送をずらしたことにより録音盤が守られたことは、天祐ともいえることだったと、下村は回想しています。

＜br /＞ この後、田中東部軍司令官、阿南陸相の自決となり、更に特攻隊を立案遂行した大西瀧次郎中将、杉山元帥ら十数名が続きます。

いずれも、責任を取り、部下の軽挙妄動を戒める意味合いのものであり、これらが、抗戦派の将兵たちを抑える大きな要因となり、その結果、マッカーサー元帥が驚嘆したような、有史に例のない一滴の血も流さない無血終戦を導くことになりました。

＜br /＞ 鈴木内閣は、直ちに総辞職し、後継に東久邇宮に大命降下します。

東久邇宮は繰り返し、放送により陛下のお言葉を伝え、承詔必謹の必要性を強調。

東京近辺の全師団長らにも直接説くなどの鎮静化に努めます。

周囲では、玉音放送後も、厚木、木更津、水戸などの航空隊では不穏な空気で殺気立っており、特に木更津の特攻部隊二千名は引き続き訓練に励み、首都上空を飛行機が依然として飛んでいるという険悪な状況でした。

＜br /＞ そうした中、米国側からは、占領軍のマッカーサー元帥が、八月二十六日に厚木に進駐するとの連絡が入ります。

それまでに航空隊の暴発を抑えないとすべては無に帰し、日本の命運は文字通り危殆に瀕することになりかねません。

東久邇宮首相、米内海相らによる必死の説得と、大西中将の、軽挙を固く戒め世界平和のために最善を尽くせとの遺書を遺しての自決などによって、遂に二十四日には武装解除に至り、航空機は分解されました。

二十五日には米軍の飛行機が日本上空に入ってきましたから、間一髪の危機回避でした。

マ元帥の進駐はたまたま数日延びましたが、マ元帥は日本人が食言しないことにすべてをかけ、躊躇することなく厚木に降り立ちました。

かくして有史に例なき無血終戦が実現したのでした。

＜br /＞ 読者は、終戦がいかに薄氷の上に立ったものだったか、いかに僥倖と人々の粉塵の努力、そして犠牲の上に成り立ったものだったのかを、本書によってひしひしと実感できるものと思います。

＜/p＞ ＜p＞本書は、終戦時の激動を迫真の筆致で描いていますが、それ以外にも、外地での終戦についても紙幅を費やしています。

遠い外地までポツダム宣言受諾と停戦命令を示達するのは大変な苦労と伴いましたし、引き揚げに際しても多大な労力と時間を要しました。

そしてその過程で、旧敵方や現地の人々との恩讐を超えた話が多数紹介されており、胸を打ちます。

改めて平和と人々の絆の尊さに思いが至る逸話の数々です。

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